誰がために炎は灯る

 灼熱の砂漠に、消えない蝋燭が一つあった。
 魔法でできた黄昏の国の、その滅びの後の忘れ物だった。
 
 ずいぶん長いこと、その砂漠には魔法でできた黄昏の国があった。そのせいで昼が訪れていなかったが、その国が滅び、薄闇はようやく明けたので、砂漠に昼が訪れ太陽が現れたのだった。
 昇り足りなかった太陽は、砂漠の上で飽きるまで長らく居座っているらしく、光は満ち満ちてありあまり、暑さはますます厳しくなった。
 その暑さに困った旅人がオアシスを求めてさまよい歩くが、進む先にオアシスは見えず、出会ったのは黄昏の忘れ物の蝋燭だった。
 旅人は訊いた。
「光は満ち満ちてあまるくらいだというのに、どうしてまだ光っているのかい?おまけに暑い。ずっと灯り続けているのなら君も暑く苦しいだろう?」
 蝋燭は言った。
「僕は消えることができないから灯っているしかできないんだ。でも火種になるから役に立てる。君が求めるなら君のために灯るよ」
 それを聞いた旅人は少し考えてからこう言った。
「今ここには水がない。だから草木も動物もいない。食べ物も何もないしとても暑いから必要なのは水だよ。申し訳ないけれど、今君の炎は必要ない」
 蝋燭はその言葉で悲しくなってしまって涙を流した。今にも消えてしまいと蠟燭は思ったが、その涙では蝋燭自身が消えることはできなかった。なぜなら涙は水ではなくて、熱い蝋だったからだ。
 これでは旅人の喉を潤わすこともできない。蝋燭はさらに悲しくなって炎を揺らした。
 旅人はそれを見て、地面にこぼれた蝋燭の涙を砂で隠してやった。
 「君の涙が飲めたら良かったのだけれど。泣いてくれてありがとう」
 そう言って立ち去ろうとした。
 蝋燭は旅人を慌てて引き止めて「ねえ君、行く前に砂をかけてくれる?」と頼んだ。
 旅人は答えて、蝋燭に炎が埋まるほど砂をかけたので、蝋燭の炎はすっかり見えなくなった。それを見て、旅人も蝋燭もその炎はようやく消えたのだと思った。
 けれども、旅人の姿が消えて風が吹き蝋燭が姿を現すと、残念なことに蝋燭の頭にはまた再び炎が現れた。
 蝋燭はまたとても悲しくなるが、今度は辺り一面誰もおらず、一人ぼっちだったので誰に炎を消すことも頼めず、諦めて灯り続けていた。
 そのうち昇り飽きた太陽が再び沈み夜が訪れる。
 砂ばかりの地面はどこにも熱を蓄えず、とてもとても寒くなったが、唯一ずっと灯っていた自分の炎だけが、蝋燭を温め、夜の闇からその身を守っていた。
 蝋燭はひとりきりその炎の光を見て、この炎は誰に求められるでもなくあっていいのだと、その暖かさで気づいたのだった。
 再び陽が昇り今度は正しく雨が降る頃。
 蝋燭の周りには、消えた黄昏の頃のように暖をとるために人が集まり始める。
 求められる喜びで蝋燭の心は再び満ちた。
 けれど蝋燭は灼熱の時代を忘れず、人々が立ち去ったのちも、誰に求められるわけでもなくただ灯った。それは自身のためだった。
 消えぬ炎は誰かのためにあるものじゃなく、その時はたまたま、誰かの役にたったというだけなのだ。

  • 最終更新:2015-11-15 22:15:07

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